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にいるときはいつもそう

てあやめ言い

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てあやめ言い


 侍二人は、刀を相手に向け合って、掛け声ばかりで一向に斬り込まない。たまに一人が斬り込もうとすると、相手は切っ先を下げて、まるで斬られてやろうとしているようである。
   「何や、何や、今、隙があったやないか」
 三太が野次る。
   「煩い、黙れ!」
 また逆に、いま切っ先を下げた方が斬り掛かると、相手が切っ先を下げる。
   「おもろないぞー、もっと気合を入れてやれっ」
 
 新三郎が戻ってきた。二人の関係と、この度の経緯を探ってきたようだ。新三郎は、三太に話して聞かせた。
   「ふーん、それでこいつらの気合の入らない果し合いの意味がわかった」
 三太は思い切り大きな声で、二人を野次った。
   「やれ、やっつけろ、もっと派手にやれーっ」
 侍の一人が、またやって来た。
   「このガキ、まずお前を黙らせてやる」
   「ちょっと待て、わいは心霊読心術が使えるねん、なっ、田沼藤三郎はん」
 田沼はぎくっとして、三太の顔を凝視した。
   「なぜ拙者の名前を知っておるのだ」
   「そやから、心霊読心術が使えると言うたやないか、お侍さんの魂に教えて貰ったのや」
   「拙者の魂がお前に喋ったのか?」
   「そうだす、相手は高崎勘兵衛さんでっしゃろ」
   「そうだ、お前の名は何と言う」
   「三太だす、福島屋の小僧、三太だす」
   「本当にそんな術が使えるのか?」
   「果し合いの原因も訊きましたで」
   「何だ」
   「上役のお嬢さん、あやめさんを取り合っての恋の鞘当てだすやろ」
   「お前、子供の癖に、よくそんな言葉を知っておるのう」
   「お侍さんの魂が教えてくれたのだす」
   「そうか、わしの魂は口が軽いのう」
 三太は、声高く笑った。
   「そうだす、よく躾ときなはれ」
   「うむ」

 高崎勘兵衛も、「何をしているのだ」と、寄ってきたので、三太は新三郎に聞いたことを話した。上役の美しい娘を、二人は同時に見初めてしまった。二人は幼馴染で、心の許せる親友であったが、同じ娘に惚れてしまったことに気づくと、どちらからでもなく「拙者が降りる」と、言い出した。親友を傷つけたくないお互いの思いから、二人共があやめを諦めようと話合った。
 面白くないのが、あやめ当人であった。二人し寄り、チヤホヤしていたのが、ばったりと途絶えたのである。そこで、あやめが思いついたのは、二人を同時に同じ場所に呼び出すことである。
 高崎には、「田沼殿のことで話がある」と、田沼には「高崎殿のことで話がある」と誘った。それを聞いた二人は、ふっと懐疑心が生じた。
   「もしや、男と男の約束を違えて、相手はあやめさんに逢っているのではないだろうか」
 半ば憤慨しながらあやめに指定された場所にやって来ると、案の定、相手があやめに逢いにやって来た。
   「やはりそうであったか」
 自分はまんまと騙されていたのだと思うと、互いが激怒して「果し合い」のくだりとなったのである。
 
 しかし、相手は心から認めていた親友である。どうしても斬ることが出来ない。ここは思いきって、相手に斬られてやろう、そうして、草葉の陰から、親友の幸せを見守ってやろう。お互いにそんな気持ちであったが、男の意地だけは貫こうと、ここを果し合いの場に決めてやって来たのだ。
   「どうだす? わいの術は信じることが出来ましたか?」
 二人は唖然として、返す言葉を忘れていた。ほんの暫くの刻をおいて、田沼が口を開いた。
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